【解説】ヨーロッパを標的とした破壊工作が急増、疑われているのはロシア

屋外の舗装された場所で、黒い服を着て、ヘルメットや手袋などを装着した人物がしゃがみこみ、爆発物の撤去作業をしている

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画像説明, ドイツ政府はライプツィヒ空港への攻撃について、欧州での「ロシアのハイブリッド作戦」のパターンに沿ったものだと指摘した
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サラ・レインズフォード南欧・東欧特派員

今年の夏、ヨーロッパ各地で最高気温が更新され、政治家の多くが夏休みモードに入るのをよそに、ロシアは自国の戦争に集中し続けていた。

ロシアのウクライナ侵攻において、今年8月は民間の犠牲者が過去最多の月だったが、激化したのはウクライナ各地への軍事攻撃だけではなかった。ロシアは、ヨーロッパ中で破壊工作をエスカレートさせたようだった。

今回は、軍事・防衛部門の施設が主な目標だった。

ドイツ東部ライプツィヒの空港で爆発物を搭載したドローンが見つかってから1カ月後、同国のアレクサンダー・ドブリント内相は、この事案はロシアに責任があると宣言した。同空港は、ウクライナが軍需品輸送の拠点にしている。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、いつものように証拠を要求した。ロシア政府の高官は、こうした非難は「ばかげている」と反論した。

しかし、このドローン事件は劇的な始まりに過ぎなかった。その後、イタリアからエストニアに至るまで、ヨーロッパ各地の防衛施設で不審火が相次いだ。

すでにロシアを非難している国もあれば、今なお捜査中の国もある。不審火の中には、偶発的なものだといずれ結論されるものもあるだろう。まさにそう見えるよう、攻撃が設計されている通りに。

ポーランドのマルチン・キェルヴィニスキ内相は、この点についてはっきりしている。

「ロシアが戦略を変更し、テロや破壊工作といった活動を活発化させている兆候がたくさんある」とキェルヴィニスキ氏は言い、注意を呼びかけた。

8月にヨーロッパで発生した事案

4日、ドイツ:ライプツィヒの空港で最初のドローンが見つかった

10日、ブルガリア:北西部トリャヴナにある防衛企業EMCOの倉庫で大きな火災が発生した。同社は声明で、過去に同社所有施設で発生した爆発はロシアとの関連を捜査されたと説明。「人的ミスの可能性は除外された」と述べた

13日、イタリア:ローマ郊外にあるKINDSアモ・イタリアで、大きな爆発があった。地元紙ラ・レプブリカは、検察当局が外部による介入を調べていると報じた。当局は公には、「不特定の人物」による過失の災害事件として捜査に着手したという点だけ認めている

15日、エストニア:首都タリンにあるミルレム・ロボティクスの工場で火災があり、容疑者2人が逮捕された。ウクライナ紙キーウ・ポストによると、同社はウクライナにドローンを供給している。エストニアのクリステン・ミハル首相は、捜査当局はロシアによる破壊工作の可能性を「真剣に受け止めている」と述べた

25日、スロヴァキア:警察はこの日、ウクライナが所有するドローン工場で未然に放火を防ぎ、「大量の発火性混合物」を押収したと発表した。工場はロシアを非難している。また、警察が逮捕した3人の容疑者は「命令に従っていた」と供述しているという。スロヴァキアは欧州の中では、ロシアに近い立場を取っている

30日、ポーランド:破壊工作の標的にされている同国で、火災2件が報告された。1件は西部ルブリンのヘリコプター部品工場から出火し、ドナルド・トゥスク首相は、放火の可能性は「否定できない」と述べた。もう1件はドローンメーカー「WGグループ」への放火で、監視カメラには覆面姿の男性が発火装置を投げ入れる様子が映っていた。トゥスク首相はこれについて、「ロシアの活動がエスカレートし続けている」と述べた。

石畳の道路のT字路に警察車両が1台停まっている。道路は写真の奥へと続いていくが、車両のすぐ後ろでテープによって封鎖されている。その向こうには金網のフェンスと工場の建物が見える

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画像説明, ポーランドのWBグループの工場も不審火に見舞われた(8月31日)

こうしたパターンは9月に入っても続いている。ドイツ南部ミュンヘンでは最近、防衛企業ローデ・シュワルツの施設に車から発火装置を投げ込んだとして、ブルガリア国籍の2人が放火の疑いで逮捕された。

これとは別に、ドイツ西部でも、変電所への破壊工作の疑いで、過激化した気候変動活動家の捜索が続いている。

なぜ今このような事態に?

軍事・防衛施設が攻撃の標的になるのは目新しいことではないが、ロシアの関与が指摘された過去の破壊工作では、家具大手イケアの店舗やポーランドのペンキ小売店など、首をかしげるような標的も含まれていた。

今の事態が新しいのは、標的が絞られている点だ。

英キングス・コレッジ・ロンドン戦争研究学部のダニエラ・リヒテロヴァ氏は、「ここ数週間で目にした軍事施設への相次ぐ攻撃は、その集中の度合いが異例だ」と話す。

リヒテロヴァ氏は、こうした攻撃の急増は、ロシアのウクライナ侵攻の展開に結びついていると指摘する。

「要するにウクライナが戦争をロシアへ持ちこみ、ロシアの領土奥深くを攻撃しているというのが、現状だ(中略)そのためプレッシャーがかかっている(ロシアは)、何とかしないとならないわけだ」

一部の破壊工作は、混乱や恐怖を引き起こすためのものだが、ロシア政府の現在の目的は「強制的な信号発信」だとリヒテロヴァ氏はみている。ウクライナ支援に伴うリスクを増やすことで、各国の支援をやめさせようと圧力をかけているのだというのだ。

開戦当初の出だしは遅かったものの、ドイツは現在、ウクライナへの軍事支援において最大の供給国となっている。

ロシアの狙いについては、他の説もある。

ロシアはウクライナへの供給の「蛇口を締める」ことを考えているというよりは、北大西洋条約機構(NATO)の弱さを試しているとみている人もいる。

英シンクタンク「王立国際問題研究所(チャタムハウス)」のキア・ジャイルズ氏は、「ロシアは、何がどこまで許容されるのか見極めようとしており、どういう結果につながったか、情報を集めている。何がうまくいき、何が弱点なのか知ろうとしている」と話す。

ジャイルズ氏は一連の破壊工作を、ヨーロッパにおけるロシアの侵攻「次の段階」への準備だと説明する。

「被害を受けた国が、それについて実際に何か行動に出ようという意欲を持っているのか、それを(ロシアは)評価しようとしている」

破壊工作を追跡している英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」によると、前回こうした作戦が急増したのは、2024年にウクライナの同盟国が、ロシア奥深くへの攻撃に西側が供給する兵器の使用を許し始めた時だったという。

2024年には、小包爆弾の計画が相次いだ。爆発性の液体の入った小包がイギリスやポーランドへ送られ、ロシアの犯行だと言われた。

小包の一つは、配送・宅配大手DHLの貨物機に積みこまれた直後に爆発した。この爆発は、より大きな計画へ向けての試験だったとみられている。

空港の滑走路で、2人の消防隊士が貨物用トロリーに放水している。トロリーからは煙が立ち上っている。

画像提供, Police handout

画像説明, 2024年には、リトアニアからイギリスおよびポーランドに計4個の小包が送られたが、そのうち2個が、イギリスの倉庫と独ライプツィヒ空港で発火した

ジャイルズ氏は、「大量の死傷者を出そうとする彼らの意欲は、この時がピークだった」と振り返る。

あまりにも深刻な展開だったため、米ホワイトハウスはロシア政府に計画を止めるよう連絡した。どこまでが許容範囲かを探っていたロシアは、その限界を見つけたのだった。

しかし攻撃は続いている。

ドイツのメディアは今月4日、連邦警察の報告をもとに、今年に入ってからドイツ全土で破壊工作が疑われる165件以上の事案が確認されたと報じた。しかし、誰による工作かは特定していない。

破壊工作の容疑者は誰なのか

ドイツの報道は、ライプツィヒの空港でドローンを発射した男性らはロシア国籍だった可能性を示している。そのうち少なくとも1人は、この犯行のためにドイツに入国した可能性がある。

これは異例のことだ。

ヨーロッパで発生した破壊工作の大半は、ロシアの代理組織によって実行されてきた。「ギグ・エコノミー工作」とも呼ばれている。

工作員は通常、旧ソヴィエト連邦に属した国出身のロシア語話者だ。インターネットを通じて雇われ、政治的な理由よりは金銭を動機にしている。

BBCがポーランドで報じた一つの事例では、工作員らは以前、ウクライナのために志願兵として戦っていた。

「指示役」たちは通常、ロシアにとどまり、インターネット上で作戦を調整しているとみられている。

IISSは、ロシアが使う代理組織を自爆型ドローンに例える。安価で大量に発射できるが、使い捨てだ。

しかし、アマチュアはずさんだったり、無謀だったりする。

小包爆弾の計画では、工作員の1人が受け渡し場所を見つけられず、作戦全体が中止となった。

つまり、もしロシアがライプツィヒでのドローン発射に専門家を送りこんだなら、それは正確な腕前と、作戦の成功を求めていたことになる。

だが実際には、爆発装置は故障した様子だった。

ソ連型の作戦に直面するNATO

ロシアの破壊工作作戦は、冷戦時代のマニュアルから来ているように見える。前出のリヒテロヴァ氏の研究によると、ソ連の破壊工作リストで名の挙がっていた標的は、最近被害に遭った場所と非常に似通っている。破壊工作作員たちも、ほぼ同じように使われていた。

その狙いは、平時に小規模で、責任を簡単に否定できる攻撃を実施しておいて、戦時に攻撃の規模をエスカレートさせることだったと、リヒテロヴァ氏は言う。

「今はまだ、(平時と戦時の)間のグレーゾーンにいるのだと思う。しかし、ここ数週間で見てきたような攻撃は、グレーゾーンを狭めている」

「そのことが、次に起きることのリスクを高めていると、私は思う」

NATOが対応に苦労するなか、個別の小攻撃がどれだけ積み重なればロシアによる持続的な攻撃となり、対応を迫られるのかという疑問に、まだ答えは出ていない。

もしかすると、何よりリスクが高いのは、偶発的なエスカレーションの可能性だ。

もし小包爆弾が上空で爆発し、貨物機の墜落の原因となっていたら? もしライプツィヒのドローンが飛行機を墜落させていたら?

「偶発的な出来事が、大きな攻撃となる可能性がある」と、リヒテロヴァ氏は言う。

「安全保障環境が緊迫しているこの状況で、そのような事態になれば、NATOはそれを無視できず、反応するしかなくなる」