イスラエル、レバノン南部への攻撃を継続 ヒズボラとの部分的停戦は維持か

ナバティエを俯瞰で撮影した写真。緑の木々赤い屋根の建物が並ぶ丘陵地帯から、複数の煙が上がっている

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画像説明, イスラエル軍は2日、レバノン南部ナバティエの住民に避難命令を出したのち、街を空爆した
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ジョン・サドワース、サマンサ・グランヴィル(レバノン南部ティール)、デイヴィッド・グリッテン

イスラエルは2日、レバノン南部への攻撃を続けた。ただし、イランの支援を受けるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの部分的な停戦合意に基づき、首都ベイルートへの攻撃は行わなかった。

イスラエルとヒズボラの停戦合意は、アメリカのドナルド・トランプ大統領が1日夜に発表した。レバノンによると、この合意では、ヒズボラがイスラエルを攻撃しないことへの見返りに、イスラエル軍はベイルートを爆撃しないことになっている。

イランは先に、レバノンにおけるイスラエルの行動が、アメリカとの戦争終結への合意に向けた交渉を危うくしていると主張していた。

停戦合意の発表後、イスラエル軍は、イスラエル北部に向けて発射された飛翔(ひしょう)体2発を迎撃したと明らかにした。一方でヒズボラは、レバノン南部でイスラエル部隊を攻撃したと発表した。レバノン当局は、同国南部へのイスラエル軍の攻撃で死者が出たと報告した。

レバノン保健省も、1日午後に南部ティール市のジャバル・アメル病院に隣接する建物がイスラエル軍の空爆を受け、4人が死亡、127人が負傷したと発表した。負傷者には病院職員39人が含まれ、うち4人が重体だという。

同病院の外には2日、壊滅的な被害が残されていた。

コンクリート片やゆがんだ金属が周囲に散乱していた。損傷した車の警報音や、切断された電線のパチパチという音が通りに響き渡る以外は、あたりは不気味なほど静まり返っていた。

数人の地元記者を除けば、外に人影はほとんどなかった。

女性が涙を流しながら、半分崩れ落ちた集合住宅を見つめて立っていた。

女性は残骸を指さしながら、「ここで暮らしている」、いや「暮らしていた」のだと話した。

ジャバル・アメル病院のワエル・ムルエ院長は2日夜、被害の対応に追われていた。

「私たちは患者や家を追われた人々に対応していた。いつも通りの業務を行っていたところ、突然、『ドーン』という音がした」と、ムルエ院長は述べた。「事前の警告は一切なかった。この光景がすべてを物語っている」。

また、周辺に軍事目標があった事実はないと主張した。

「イスラエルという敵は、ジャーナリストや救急隊員、医療従事者を標的にしている。彼らにとっては誰であろうと関係なく、ただ私たちをこの国から追い出したがっている」

白いベッドが置かれた病室に、黒い布で頭を覆った女性の医療従事者2人が立っている。ベッドには男性1人が横たわっている

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画像説明, ジャバル・アメル病院で患者の治療にあたる医療従事者。レバノン当局は、同病院のすぐ隣でイスラエル軍の空爆があり、4人が殺害されたと発表した。イスラエル軍は、「ヒズボラのテロリストのインフラ」を攻撃したと主張している。(2日、ティール)

病院の廊下には、割れたガラスが散乱し、天井のパネルは床に落下していた。一列に並んだ保育器は、爆風でひび割れ、損傷していた。

攻撃のわずか4時間前には、産科病棟で男の子が生まれたばかりだった。青い毛布にくるまれて眠るこのファレスくんのそばで、母親が休んでいた。

祖母のアマルさんは、誇らしげに孫を見せた。

「確かに生活はとても厳しいが、私たちは耐えなければならない」と、アマルさんは孫を見つめながら言った。「ここはこの子の国であり土地だ。(孫は)それを守らなければならない。それが責任というものだ」。

イスラエル、ヒズボラのインフラを攻撃と

イスラエル軍は、レバノン南部にある「ヒズボラのテロリストのインフラ」を攻撃したと主張した。

また、今回の攻撃で病院に被害が出たことは認めたものの、病院自体は「標的にしていない」と強調した。また、ヒズボラが民間インフラや人口密集地に紛れ込んでいるとも非難した。その証拠は示さなかった。

レバノン保健省によると、この3カ月間で救急隊員や医療従事者128人が殺害され、救急車や医療施設に対する攻撃は159件に上っている。

レバノンの民間防衛当局は2日朝、ナバティエ市クファル・シルにある民間防衛当局の施設にもイスラエルの攻撃があったと発表。建物は損壊したが、死傷者はなかったとした。また、天井からゆがんだ鉄骨が垂れ下がり、床一面にがれきが散乱している様子の写真をソーシャルメディアに投稿した。

レバノンの国営通信社NNAは、キリスト教徒が多く暮らす近隣のクライア村出身の歯科医が、マルジャユンとナバティエの間の通りで起きたドローン攻撃により、娘と息子とともに殺害されたと報じた。

イスラエル軍は2日午後、ナバティエの住民に対して新たな避難命令を出した。ヒズボラが「停戦合意に違反」しているため、同地でヒズボラに対して「強硬に行動せざるを得ない」と警告した。

イスラエル外務省は詳細を明らかにしなかったが、ヒズボラが1日の停戦合意に違反し、レバノンからイスラエルの地域社会に向けて「複数のミサイルとドローンによる攻撃」を行ったと主張した。

ヒズボラの軍事部門は、同組織の戦闘員がレバノン南部のハダサ、バヤダ、ザウタル・アル・シャルキヤの各町で、ドローン、ミサイル、砲弾を使ってイスラエルの戦車や部隊を攻撃したと発表した。越境攻撃については言及しなかった。

今回のイスラエルとレバノンの紛争は、米・イスラエルが2月28日にイラン攻撃を開始し、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師を殺害した2日後の3月2日に始まった。イランの支援を受けるヒズボラがイスラエルにロケット弾を発射し、イスラエルは大規模な空爆とレバノン南部への地上侵攻で応じた。イスラエルはここ数週間で攻勢を強めている。

紛争が始まって以来、レバノンでは少なくとも3468人が殺害されたと、レバノン保健省は発表している。同省のデータは、戦闘員と民間人を区別していない。

レバノンの国土の8分の1以上が、イスラエルの避難命令の対象地域になっている。国連によると、レバノンで避難民として登録された人の数は100万人を超えている。

一方で、イスラエルとレバノンではこれまでに、イスラエルの兵士25人と民間人4人が殺害されている。

岩壁の上に築かれた要塞のふもとに、緑の木々と破壊された家屋が見える

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画像説明, イスラエル北部から見たレバノン南部の破壊された家屋と、その後ろに建つボーフォート城。イスラエル軍は5月31日、戦略的要衝のこの城を制圧した(2日)

部分的な停戦案で合意

在米レバノン大使館は1日深夜、レバノンのジョセフ・アウン大統領とアメリカのマルコ・ルビオ国務長官の電話協議を受け、アメリカが提案した部分的な停戦案をヒズボラが受け入れたことを、レバノン政府が確認したと発表した。

在米レバノン大使館は声明で、「提案された取り決めのもと、ヒズボラがイスラエルへの攻撃を控えることと引き換えに、イスラエルはベイルート南郊攻撃を中止する」と説明。さらに、停戦は「レバノンの領土すべてを含む形で拡大される」とも付け加えた。

アメリカのトランプ大統領が、レバノンのナダ・ムアワド大使に対し、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の合意を得たことを伝え、その後、アウン大統領がその結果をヒズボラ側に伝達したと、声明は付け加えた。

その後、トランプ氏は自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、イランとの協議は「速いペース」で続いていると主張。ネタニヤフ首相とヒズボラの代表者の両方と話をしたと書いた。

「イスラエルのビビ・ネタニヤフ首相と非常に生産的な電話をした。ベイルートに軍隊は行かず、向かっている軍隊はすでに引き返している」、「同様に、高い立場にいる代理を通じて、私はヒズボラと非常に良い話し合いをした。彼らはすべての銃撃をやめること、つまりイスラエルが彼らを攻撃しないこと、そして彼らがイスラエルを攻撃しないことに同意した」と、トランプ氏は投稿した。「ビビ」は、ネタニヤフ氏の愛称。

ネタニヤフ氏は声明で、「ヒズボラが私たちの都市や民間人への攻撃をやめなければ、ベイルートのテロリストの標的への攻撃を実行する」ことをトランプ氏に伝えたと明らかにした。また、イスラエル軍は「計画どおりレバノン南部で活動を続ける」とも述べた。

ヒズボラの報道官は2日、ベイルート南部ダヒエ地区に対するイスラエルの攻撃の可能性について、イランの圧力によって阻止されたと、BBC番組「ニュースアワー」に述べた。ヒズボラの政治評議会のメンバーで元閣僚のマフムード・カマティ氏は、「停戦合意は存在しない。ダヒエが守られただけだ」と述べた。

これに先立ち、ヒズボラの有力議員ハッサン・ファドララ氏は、ヒズボラ系テレビ局アル・マナールに対し、「一方的な」停戦は支持しないと述べた。ファドララ氏は、レバノン南部からのイスラエル軍撤退に向けた前段階として、包括的な停戦の実現を求めた。

また、長年にわたりヒズボラとアメリカの仲介役を務めてきたレバノンのナビフ・ベリ国会議長も、米紙ニューヨーク・タイムズに対し、ヒズボラは「真の停戦」であれば受け入れる意向だと語った。

イスラエルとレバノンの外交官による追加協議は、2日と3日にワシントンで行われる。

こうした外交的動きは、イスラエル市民に対するロケット弾やドローンを使った攻撃や、4月に発効した停戦合意に対する違反行為への対応として、ネタニヤフ氏がヒズボラの拠点であるベイルート南郊への攻撃を命じた後にみられるようになった。

米ニュースサイト「アクシオス」は1日、米政府関係者2人の話として、トランプ氏がネタニヤフ氏との「電話で罵倒を交えながら」同氏を「激しく非難」し、レバノンをめぐる計画を実行しないよう伝えたと報じた。

イスラエルの一部の政治家からは、ベイルートを攻撃しないよう求めたトランプ氏の要求を受け入れたネタニヤフ氏を批判する声が上がった。

イスラエルの極右政治家イタマル・ベン・グヴィル国家安全保障相は、「今こそ、我々の友人に『ノー』と言う時だ」と述べた。野党指導者ヤイル・ラピド氏は、イスラエルは「完全な従属国家」になってしまったと述べた。

イスラエル首相官邸からコメントは出ていない。

アクシオスは、トランプ氏の怒りの背景には、イスラエルによる軍事的エスカレーションが、米・イスラエルとイランの戦争終結に向けた合意交渉を脅かしているとの懸念があると示唆した。

ネタニヤフ氏の脅しに対し、イラン政府関係者は相次いで警告を発した。アッバス・アラグチ外相は、アメリカとイランの停戦は「レバノンを含むすべての戦線における停戦であることに疑いの余地はない」とし、「一つの戦線での違反は、すべての戦線における停戦違反だ」と述べた。

こうした中、イランの強硬派系通信社タスニムは、レバノンにおけるイスラエルの軍事行動を理由に、イラン政府がアメリカとの間接交渉を中断する可能性があると報じた。