【解説】米・カナダの貿易戦争を五つの図表から見る

グラフの上にカナダ国旗とアメリカ国旗の様式化された画像が表示されている。
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ナディーン・ユーシフ・カナダ担当上級記者、ジェシカ・マーフィー・カナダ編集長

アメリカとカナダの間で続く貿易紛争は、依然として解決に向けた進展が見られないようだ。

約18カ月前にドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスに復帰し、多岐にわたる世界的な関税政策を打ち出して以来、両国間の緊張はくすぶり続けている。

カナダはトランプ政権が最初に課税対象とした国の一つで、独自の報復措置で対抗した2カ国のうちの1カ国だ。

アメリカは現在、カナダの鉄鋼、アルミニウム、木材、自動車といった主要産業に関税を課している。先週にはさらに、約280億カナダドル(200億米ドル、約3兆2000億円)相当のカナダ製品に対し、50%の追加関税を課した。

カナダもアメリカ製品に対する関税で反撃している。25日には「同額の」「戦略的な」報復措置を発表した。

解決の見通しが立たない中、この長期化する貿易戦争は両国にどのような影響を与えてきたのか。そして今後、どのような展開が予想されるのか。

五つの図表で解説する。

カナダで最も打撃を受けるのはオンタリオ州

関税と報復関税は、州や地域によって影響の度合いが異なる。

カナダでは一部の州が、北米3カ国で構成される貿易協定「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に準拠しない鉄鋼、鉄鋼派生製品、アルミニウム、自動車および自動車部品に対する関税の影響を、より強く受けている。

人口が最も多く、製造業が盛んなオンタリオ州は、自動車と鉄鋼への関税によって最も大きな打撃を受けている。

すでに同州の複数の自動車部品工場や組み立て工場が、人員整理や生産縮小を発表している。同州では2025年初頭以降、数万件もの製造業の雇用が失われたと推定されている。

カナダ各州の輸出がアメリカの最新関税の影響を受ける割合を、地図上に色の濃さで示した図。一番薄い色が0.3%、一番恋色が13.8%となっている。最も濃いのはブリティッシュコロンビア州で、これにケベック州とオンタリオ州、マニトバ州、ノヴァスコシア州が続く。アルバータ州、ニューブランズウィック州、ニューファンドランド・ラブラドール州、プリンスエドワードアイランド州は色が薄い。3準州のデータはない。出典はカナダ統計局とロイヤルカナダ銀行

今年7月に発表されたデータによると、鉄鋼、銅、アルミニウムを生産するケベック州からの金属輸出は、2025年2月から2026年2月の間に36%減少。同セクターの雇用も3.6%減少した。

カナダロイヤル銀行の推計によると、アメリカの関税の影響を最も受けるのはオンタリオ州とケベック州。一方、影響が最も少ないのはニューファンドランド・ラブラドール州、ニュー・ブランズウィック州、アルバータ州、サスカチュワン州、プリンス・エドワード・アイランド州となっている。

今月22日に発効した、200億ドル相当のカナダ製品に対する追加関税は、すべての州に何らかの影響を与えると予想されるが、特にブリティッシュ・コロンビア州、ケベック州、オンタリオ州が最大の打撃を受けるとみられている。

アメリカでは「激戦州」が標的に

アメリカ経済の規模は、カナダと比べてはるかに大きい。そのため、カナダの報復関税の影響はそれほど深刻ではないだろう。

しかし、その痛みは州によって程度が異なる。鉄鋼から家具、化粧品、トイレットペーパーに至るまで、280億カナダドル相当のアメリカ製品に関税が課される予定だ。

カナダ統計局のデータによると、最も影響が大きいのはオハイオ州。選挙で共和党と民主党どちらが勝ってもおかしくない「激戦州(スウィング・ステート)」とされる同州では、32億カナダドル相当の輸出品が、カナダによる関税の対象となる見込みだ。こでに、イリノイ州とペンシルヴェニア州が続く。

オハイオ州にとって特に痛手となるのは、鉄鋼と洗濯機への課税だ。農業機械大手ジョン・ディアの本拠地イリノイ州では、農業機械と建設機械への新しい関税が影響するだろう。

ノヴァ・スコシア銀行のエコノミスト、デレク・ホルト氏は、今年11月の中間選挙でアメリカ政界の勢力図を決めるかもしれない激戦州を、カナダの報復関税は「非常に意図的に狙っている」ようだと指摘した。

米各州の、カナダの報復関税の影響を受ける輸出額を色の濃度で示した地図。最も濃いのが32億3000万カナダドルで、イリノイ州とオハイオ州。これにペンシルヴェニア州、カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州、ミシガン州、ウィスコンシン州、インディアナ州、ワシントン州が続く。出典はノヴァスコシア銀行とカナダ統計局

最低税率からの飛躍

カナダのマーク・カーニー首相は、同国は他国と比較して、アメリカからの関税率が最も低い国の一つだと国民に保証した。

しかし、カナダ製品の一部に50%の関税が課されたことで、アメリカがカナダに対して課している平均実効関税率のはメキシコよりも高くなり、イギリスやヴェトナムなどの関税率に近づいている。平均実効関税率は、すべての輸入品に対して支払われる平均関税率を反映している。

カナダ王立銀行のデータによると、6月時点のアメリカによるカナダへの平均実効関税率は2.9%で、主要なアメリカ貿易相手国の中で最も低かった。しかし、現在ではほぼ2倍増の5.7%となっている。

比較すると、アメリカがイギリスに課している実効関税率は6.2%。中国は依然としてアメリカから最も高い関税を課されており、平均で約20.5%となっている。

アメリカが各国に課している実行関税率を比較する棒グラフ。2026年6月時点の各国への関税率に、カナダだけ新関税が追加されている。関税率が高い順に、中国(21%)、日本(10%)、インド、韓国(共に8%)、ユーロ圏(7%)、ヴェトナム、イギリス、カナダ、タイ(いずれも6%)、メキシコ(3%)。出典は米国勢調査局とロイヤルカナダ銀行。実行関税率は、徴収された関税額を輸入総額で割って算出。各数値は四捨五入されている

カナダの輸出は他国へ向かっている

カナダは、世界最大の経済大国とたまたま隣国同士だという偶然ゆえに、アメリカとの貿易に大きく依存している。

その地理的な近さと、1980年代から締結されている自由貿易協定により、両国は世界で最も経済的に深く統合された貿易関係の一つを築き上げてきた。

アメリカはカナダの輸出の70%以上を購入しており、メキシコ、中国と並ぶ主要な貿易相手国だ。

しかし、関税をめぐる争いを機に、カナダ企業はすでに他の市場へとシフトし始めている。カーニー首相は、今後10年間でカナダのアメリカ以外の輸出額を倍増させることを公約している。

中央銀行にあたるカナダ銀行の統計によると、トランプ氏が2025年1月にホワイトハウスに復帰して以来、カナダ企業はアメリカ以外の国への輸出を増やしている。

カナダのアメリカとアメリカ以外への輸出の増減を、2024年の月平均と比較した線グラフ。2025年3月にアメリカの関税が発効して以降、アメリカ以外への輸出は着実に拡大し、2026年1月には60%増まで達した。アメリカへの輸出は2025年は縮小傾向にあったが、2026年には増加に転じた。データは季節調整済み。米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の対象製品の大半はアメリカの新関税から除外されている。鉄鋼、アルミニウム、自動車には個別の関税が適用されている。出典はカナダ銀行

一部の企業は、他の場所で顧客を見つけるために適応策を講じている。

トロントを拠点とするメンズウェア「アウトクラス」のオーナー、マッテオ・スガラメラ氏は、ニューヨークではなく仏パリで受注会に参加するようになったことで、ヨーロッパの顧客層を拡大できたとBBCに話した。

「素晴らしい反響をもらっている」とスガラメラ氏は言う。特にヨーロッパの一部の小売店は、アメリカとの貿易戦争が続くカナダの製品支援に非常に熱心だと付け加えた。

「私たちは今ある意味、アメリカに立ち向かっている唯一の国と見られている」と、スガラメラ氏は述べた。

しかし、事業の多角化に苦戦している企業もある。特に、アメリカとの結びつきが強いオンタリオ州の製造業ではその傾向が顕著だ。

カナダの商工会議所が最近発表した報告書では、オンタリオ州のオシャワ、ロンドン、キッチナー・ケンブリッジ・ウォータールーの3地域が特に脆弱(ぜいじゃく)だと指摘されている。

「これらの都市は依然としてアメリカ市場との結びつきが強く、アメリカ以外への輸出の伸びは限定的、もしくは貿易活動や地域経済状況の全般的な低迷を相殺するには不十分だ」と報告書は述べている。

しかし、低迷している企業もあるなかで、カナダへの海外直接投資は2025年に968億カナダドルに達した。これは、2007年以以降のカナダ経済への資本流入額としては最高額だ。

カナダ経済も2026年第2四半期(4~6月)に力強く回復している。輸出と国内投資の急増により、国内総生産(GDP)は3.3%の成長を記録した。

こうした最新の数字は、少なくとも今のところは、景気後退(デフォルト)への懸念を払拭している。

カーニー氏は、今まで以上に投資を呼び込みたいと考えている。9月には、同政権初となるカナダ投資サミットを開催し、主要投資家や企業幹部、ビジネスリーダーらをトロントに2日間招く予定だ。

雇用機会と可処分所得の減少

国境の両側で、関税は雇用と可処分所得に打撃を与えている。

カナダ・アメリカビジネス協議会(CABC)が委託した分析によると、アメリカとカナダがUSMCAの失敗を容認した場合、数万もの雇用が失われる見通しで、その主な影響を受けるのは、関税の影響を直接受け、アメリカ市場に大きく依存している製造業だという。

カナダ銀行のデータによると、2025年1月から2026年1月にかけて、カナダではすでに約5万5000人の製造業の雇用が失われている。

しかし、すべての数字が悪いわけではなく、アメリカの関税の影響を受けにくいカナダのセクターでは雇用が着実に増加している。

カナダで対米輸出への依存が高い産業と依存が限定的な産業の雇用の推移を示した線グラフ。アメリカの関税は2025年3月に発効したが、対米輸出への依存が高い産業は四半期ごとに平均5%ずつ減少している。一方、対米輸出への依存が限定的な産業は、数%ではあるが雇用が伸びている。データは季節調整済み。依存が高い産業は、雇用の少なくとも35%がアメリカからの需要に依存している。出典はカナダ統計局とカナダ銀行

しかし、トランプ政権が最近課した50%の関税により、カナダで今後さらに雇用喪失が増えるリスクがある。

カルガリー大学の経済学者トレヴァー・トゥーム教授は、アメリカによる新関税が続いた場合、カナダ全土で合計9万人の雇用が失われる可能性があると推定している。

アメリカでは、超党派のシンクタンク「アメリカ進歩センター」が、トランプ大統領が昨年、数十カ国に課した「解放の日」関税により、製造業、運輸業、倉庫業で数万もの雇用が失われたと推計している。

雇用が安定している人にとってさえ、関税は日用品の価格上昇を意味する。

米シンクタンク「タックス・ファウンデーション」は、トランプ政権がカナダを含む複数の国に対して課した関税により、アメリカの世帯は今年、平均で840ドル多く支払うことになる可能性があると試算している。

他方、カナダの報復関税は国内の消費者への影響を抑えるために、ことさら的を絞ったものだが、経済学者らは、税金の大部分がアメリカからの工業資材の輸入に課されるため、今後は企業の製造コストが増加する可能性が高いと述べている。