【解説】チベット土石流の映像、中国で放送されず 被災者情報も乏しく……BBC中国特派員

動画説明, ネパール・中国国境付近の土石流、発生時の映像 建物や橋が流失(無音映像、衝撃的な内容が含まれます)
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ローラ・ビッカー中国特派員(北京)

その衝撃的な映像は、ほとんど見逃しようもなかった。ネパールと中国・チベットの間の国境検問所として、主要な拠点の一つとなっているギロン港を激流が襲った際の映像だ。水は、行く手を阻むものすべてを押し流した。数百人が命からがら逃げ惑う様子が撮影されていた。

監視カメラが捉えたこの映像は、ソーシャルメディアを通じて瞬く間に拡散し、世界中の画面に映し出された。

ただし、ここ中国は例外だ。

これまでのところ、中国国営の主なニュース番組で放送されたのは、静止画1枚のみ。

中国当局が厳しく検閲するインターネットでは、この動画はなかなか見つからない。土石流は26日に発生し、数百人の命を奪い、数千人が依然として行方不明だ。しかし、その土石流に関する投稿を見つけることさえ、同じくらい難しい。

中国政府は、多くの救助隊員を投入して大規模な救助活動を展開している。習近平国家主席は関係者との緊急会議を開き、対応を調整した。

しかし、中国のインターネットの内容を、世界の多くの国がこの数日オンラインで目にしたものと比較すると、中国のファイアウォールの存在がこれまで以上にはっきりとわかる。

中国は1950年代にチベットを併合したが、チベットは長年、中国共産党による支配に抵抗してきた。

中国はそうした抗議活動を、時には暴力的手段で鎮圧してきた。仏教徒の多い同地域での重大な人権侵害も非難されている。チベットの精神的指導者である亡命中のダライ・ラマ14世を、中国は分離主義者と指弾する。

こうした経緯から、中国は「チベット」という名称自体を検閲の対象にしている。今回のような事態になると、中国がチベットについていかに敏感か、とりわけ顕著に表れる。

行方不明者と死者については、最新情報が連日更新されている。中国当局は、救助活動の状況や、せき止め湖の氾濫の危険性についても最新情報を発信している。

しかし、それ以上の詳細はほとんど分かっていない。チベットの生存者からの証言はなく、土石流が大勢の命を奪った瞬間、あるいはその後の様子を捉えた、一般人撮影の映像もほとんどない。

行方不明者の家族の話も、まだ聞けずにいる。チベット自治区の人たちに連絡をとるのは、通常の時でもほとんど不可能なのだ。

私は北朝鮮取材の経験があるが、チベットの中心都市ラサにいる人に取材するよりも、平壌にいる人に取材する方がむしろ容易だ。

監視カメラの映像には、チベットのギロンで泥と水が建物を破壊する中、大勢が逃げ惑う様子が映っている。

画像提供, Reuters

各国のニュースは27日夜、ヒマラヤの渓谷で起きた大災害をトップで伝えた。しかし、中国の国営放送は、習氏の「最も重要かつ根本的な著作」を選りすぐった新著の発売をトップニュースとして扱った。

外国人ジャーナリストは、中国政府の許可なしにチベットへ行くことができない。これほどの大ニュースについて、動画が削除され、発言が封じられるまでの、ほんのわずかな時間の間に、私たちはできる限りの情報を集めるしかない。

その代わりに、私たちは国営メディアに頼らざるを得ない。その国営メディアはこれまで、非常にドラマチックな救助活動に焦点を当ててきた。

専門の捜索隊が、山や崖を登ったり、激流を渡ったりして、最も被害の大きかった地域にたどり着こうとする様子を、国営メディアは伝えた。しかし、その後どうなったのか、誰かを救えたのかは、まだ分かっていない。

中国政府が、被災状況に無関心だというわけではない。むしろ、彼らは非常に懸念しているのだ。

中国の李強首相が、直ちに被災地に派遣された。そして、首相ががれきの撤去作業を視察する姿が公表された。大災害の発生から間もなく、国内2番目の地位にある政府首脳が被災地を訪問するなど、異例のことだ。

中国政府の対応は抑制的だと、世界は思うかもしれない。しかし、この対応の狙いは、習主席が自国に切望する唯一のもの、すなわち安定を維持することにあるのだ。

中国共産党は、今回のような惨事が住民の不満をあおりかねないと懸念しているだろう。災害の事後対応への不満、あるいは大災害を未然に防ぐための先見性の欠如に対する不満を、当局は警戒しているはずだ。

また、今回のような悲劇がもたらす影響や、それが住民団結のきっかけになる可能性も、中国政府は恐れているかもしれない。特に、信仰が長く中心的な役割を果たしてきた地域社会においてはなおさらだ。

この地域ではもう長年、抗議活動は起きていない。しかし、国外のチベット人団体は、僧院や仏教の役割を弱体化させるための新しい教育法など、中国の支配強化に懸念を表明している。

壊滅的な洪水と土砂崩れが発生したチベットのシガツェで活動する救助隊員たち

画像提供, Gongga Laisong/China News Service/VCG via Getty Images

災害発生からわずか数時間後、中国共産党組織は、災害対応に対する不満を早々に抑え込もうと、草の根レベルで動員をかけた。

地元の党事務所は党員への通知で、それぞれの地域での災害救援活動に積極的に参加し、被災住民に精神的な支えや心理的な援助を提供するよう促した。

特に重要な指示は、「被災地における社会秩序の維持、安定の確保、そして国民の信頼の維持に全力を尽くす」というものだった。優れた働きをした者は報われ、失敗した者は「責任を問われる」ことになる。

この警告を、現地住民は決して軽視しないはずだ。人権活動家によると、この地域のチベット人は、ジャーナリストと話したり、政府の主張に反すると思われる内容をオンラインに投稿したりしただけで、拘束もしくは逮捕される可能性があるという。

このため、地域外に住むチベット人にとっては、親族の安否をなかなか知ることができない状態が続く。

NGO「チベットのための国際キャンペーン(ICT、本部ワシントン)は、現地で活動する救助隊員の働きを称賛する一方で、中国当局がソーシャルメディアから動画などの現地情報を削除していると指摘した。そして、中国当局に対し、「被害状況と死傷者に関する完全かつ検証可能な情報を開示する」よう求めた。

チベットの人々の生活がどのようなものかを理解しようと、BBCは昨年、ヒマラヤ高原の端に位置する町を訪れた。中国がチベット自治区と呼ぶ地域のすぐ外側にある場所だ。

そこで私たちは、かつて中国への抵抗運動の中心地だったアバ(チベット語ではンガバ)のキルティ僧院を訪れ、僧侶たちに話を聞いた。

「私たちチベット人は、基本的な人権を否定されている」と、僧侶の一人は話した。

自分たちは常に監視されていると、僧侶たちは言い、中国政府がチベット人を抑圧し迫害していると主張した。私たちが長時間、誰かと話しているところを見られるわけにはいかなかったので、取材は短時間で終わった。

中国政府は、チベット人の権利を侵害していることを否定する。むしろ観光振興のため、そしてチベットを中国本土と統合するため、同地域へ多額の投資を行ってきたことを強調する。

しかしながら、中国の人々は、現在チベットで何が起きているのか、あまり知らないはずだ。