カナダの大規模な山火事でアメリカにも煙、トランプ氏は追加関税を主張

画像提供, Selcuk Acar/Anadolu via Getty Images
ナディーン・ユーシフ・カナダ担当記者、マルコ・シルヴァBBCヴェリファイ記者、ザーラ・ファティマ記者
カナダの数百カ所で山火事が続き、その煙の影響がアメリカ北東部にも及んでいる事態を受け、ドナルド・トランプ米大統領は17日、カナダに追加関税を課すと脅した。
カナダ山火事情報システムによると、17日の時点でカナダ国内の約890カ所で火事が燃え広がっており、その大半は制御不能な状態にある。オンタリオ州では190件以上の火災が発生しており、中には制御不能なものもある。
この状況でトランプ氏は、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、「アメリカは不必要に、汚く、汚染され、不健康な空気に侵されている」と書き、カナダの「意図的な怠慢」に対して関税を追加すると脅した。
また、カナダのマーク・カーニー首相に電話をして同国の「意図的な怠慢」について説明を求めると書き、カナダが森林や低木を「適切に管理していない」と非難した。
トランプ氏の発言後、カナダの緊急事態管理を担当する閣僚のエリナー・オルシェフスキー下院議員は、両国の1982年の相互消防協定と、2025年の主要7カ国(G7)サミットで成立した別の支援協定を挙げ、両国は常に連絡を取り合い、今回の山火事のような災害に協力して取り組んできたと述べた。
オルシェフスキー氏は、カナダは森林の持続可能性と火災予防に120億ドルを投資し、緊急事態管理能力、連邦政府の緊急事態調整能力、および民間対応能力を強化してきたと述べた。
「この災害は国境に頓着しないもので、カナダは人々の安全を守るために、迅速かつ協力的に連携して取り組んでいる」とオルシェフスキー氏は強調した。
カーニー首相は中東部オンタリオ州での記者会見で、「気候変動は、アメリカを含め、すべての人の責任だ。本当に全員の責任だ」とフランス語で発言。カナダ政府が各州や地域社会と「緊密な連絡を取り合っている」と付け加えた。
トランプ氏の投稿に先立ち、米与党・共和党の議員らも山火事について苦情を重ね、この山火事の問題を機に、カナダをアメリカの51番目の州にするというトランプ氏の構想にあらためて言及している。
「カナダをアメリカの51番目の州に」というトランプ氏や共和党議員たちの主張に、カナダ国民の多くは強く反発してきた。アメリカへの旅行を止めた人が大勢いるほか、インターネット上では、カナダ政府の資金援助で建設中のオンタリオ州と米ミシガン州を結ぶゴーディ・ハウ国際橋の開通を延期すべきだという意見も出ている。
オンタリオ州のダグ・フォード州首相はアメリカに対し、苦情を言うのではなく火災対策への支援を送るよう求めた。
アメリカとカナダの関係はこの1年、主に貿易問題が原因で緊張を繰り返してきた。トランプ大統領は、アメリカと長年にわたり自由貿易関係にあったカナダに対して関税を課し、両国は未だに貿易協定に至っていない。
山火事の原因は
カナダ山火事情報システムによると、カナダではすでに300万ヘクタール近い土地が山火事によって焼失している。
その影響は広範囲に及び、アメリカではミネソタやミシガンからペンシルヴェニア、オハイオ、ニューヨークの各州に濃い煙が広がっている。
煙が広がる地域の大部分で「危険」な大気汚染警報が発令され、多くの屋外イベントが中止となった。
スイスの大気質追跡機関IQAirによると、17日の時点でミシガン州デトロイトの大気質は世界最悪で、次いで中西部のイリノイ州シカゴ、首都ワシントン、7位のニューヨークと続いた。
カナダ当局宛ての公開書簡の中で、ミシガン州選出のジョン・ジェイムズ、ジョン・ムーレナー、ジャック・バーグマン、リサ・マクレイン各連邦下院議員は、「我々の忍耐は限界に達した」と述べた。
「行動する代わりにただ謝る、そのような謝罪を私たちはもう受け入れない」と議員らは述べ、カナダが行動しないなら、国境を越えた山火事の予防と消火活動にアメリカが直接関与することを検討するかもしれないと警告した。
「昨年の時点で(カナダは)この問題に緊急に対応すると私たちに伝えた。しかし、そうはならなかった」と議員たちは主張し、それどころか「カナダの無策の代償を、アメリカ人の肺が毎年払い続けている」と批判した。
米議員らは、「森林の間伐、燃料削減、計画的な野焼きへの慢性的な投資不足、および放火に対する不十分な取り締まり」といった問題が「十分に対処されていない」と述べた。
しかし、BBCヴェリファイ(検証チーム)が 複数の科学者に取材したところ、事態はもっと複雑だと専門家たちは話している。
「天気は国境など気にしない」と、トロント大学のパトリック・ジェイムズ博士は言う。
煙が大気中に到達すると、風に乗ってどこへでも運ばれていく。アメリカで近年発生した大規模な山火事による煙は、カナダにも影響を与えている。
専門家たちまた、現在の火災の多くはカナダの遠隔地に広がる広大な森林地帯で燃えているもので、こうした地域では火災が大規模になる前の発見や鎮圧は難しいと指摘している。
森林管理の改善によって、特に住宅地に近い地域などでは山火事のリスクを軽減できるかもしれないものの、現在発生しているような大規模な山火事は防ぐことができないという。
カナダで山火事は珍しくないが、ここ数週間で発生件数が急増している。アメリカとカナダの専門家らは、6月末にオンタリオ州北部で猛暑が続いたことと、降雨量が平年を下回ったことが原因となった可能性が高いとの見解で一致している。
科学者らはまた、山火事の激化の一因として、気候変動による高温・乾燥化が火災の延焼を助長していると指摘している。また、落雷によって発生した火災もある。
「気候変動は地球規模の問題だ。カナダだけが山火事を引き起こした、あるいは防ぐことができたと主張するのは不正確だ」と、カナダのウォータールー大学のアナベラ・ボナダ博士は指摘した。
「文句ではなく支援を」とカナダ州首相
米ミシガン州選出の下院議員たちの声明を受け、オンタリオ州のフォード州首相は17日、米カリフォルニア州で山火事が発生すればカナダはアメリカを支援し、米ノースカロライナ州のハリケーン対策にも協力してきたと述べた。
「文句を言うよりも、支援や援助を送るべきではないか。私たちはアメリカの友人たちに対して、まさにそうしてきたからだ」と、フォード氏は述べた。
フォード州首相はまた、米野党・民主党が州の行政を率いるミシガン州とマサチューセッツ州は、消火飛行機、消防士、救助活動などの提供ですでにオンタリオ州に支援を申し出ていると述べた。
フォード氏は、150以上の消防隊が地上で消火活動にあたっており、80機以上の消防飛行機やヘリコプターも投入されていると述べ、地元政府の火災対応に対する批判を一蹴。州政府は2018年以降、山火事対策に10億ドル以上を費やしており、対策が必要なため毎年、消防活動の基本予算を常に上回る額を支出しているとも付け加えた。
「我々はあらゆる資源を投入している」と、州首相は述べた。
煙霧と炎の影響
カナダの西海岸でも火災が発生しており、ブリティッシュコロンビア州では17日に59件以上の火災が報告された。同州の山火事対策局によると、火災のうち39件は過去24時間以内に発生し、31件が制御不能な状態にあるため、消防当局は対応を強化している。
アメリカでは16日、オンタリオ州北西部の火事の影響で濃い煙霧がニューヨーク市全域に及び、エンパイア・ステート・ビルや自由の女神像などが見えにくくなった。同様に、首都ワシントンのさまざまな記念碑も煙霧によって見えにくくなった。
影響を受ける各地の当局は、煙を吸い込むと深刻な健康被害の原因になると警告。屋内にとどまるよう住民に強く呼びかけており、一部地域では無料でマスクを配布している。
この影響で、アメリカ北部各地で屋外の活動が中止された。サマーキャンプは屋内開催に変更され、コンサートは延期され、湖の湖岸にあるビーチなども閉鎖された。
大気質の悪化は一部地域の航空便にも影響を及ぼし、空港での視界不良によりフライトの遅延が発生した。
米東部時間19日午後3時(日本時間20日午前4時)に開始予定のサッカー男子ワールドカップ(W杯)北中米大会の決勝戦についても、影響が懸念されている。トランプ氏も出席予定の決勝戦の会場は、ニュージャージー州のメットライフ・スタジアムで、このスタジアムには屋根がない。
ホワイトハウスのW杯対策本部長を務めるアンドリュー・ジュリアーニ氏など政権関係者は、国際サッカー連盟(FIFA)関係者や山火事を監視する当局者と非公式な会合を開いているが、大規模な正式会合は今のところ予定されていない。
気象当局者らは、会場周辺で週末にかけて予測される降雨により、試合開始前には状況が改善されると見込んでいる。
カナダの先住民コミュニティーにも被害
カナダのオンタリオ州北部では、「ファースト・ネイションズ(最初の人々)」コミュニティーでも甚大な被害が出ている。
コミュニティーの数十人が避難を余儀なくされており、一部の人々がボートで人里離れた地域から避難する様子を捉えた動画も公開されている。
同州北部のナマイグーシサガガン・ファースト・ネイションの人たちは、ほとんど予告なしに火災に地元を襲われ、「ひどく動揺している」と述べている。
ナマイグーシサガガン・ファースト・ネイションの緊急事態担当、マシュー・ホップ氏はBBCに対し、オンタリオ州北部で発生した山火事により、彼のコミュニティーは壊滅的な被害を受けたと語った。
ホップ氏によると、火災が急速に迫ってきたため、住民は13日午後に小型ボートで「自主避難」せざるを得なかったという。死者や直接的な負傷者は出なかったものの、地域は「完全に壊滅状態」になったと同氏は述べている。
ナマイグーシサガガン・ファースト・ネイションのヘレン・パーヴォラ首長は、地元ニュースメディアに対し、上空からの映像を見ると、自分のコミュニティーは「焼き尽くされてしまった」と話した。
フォード州首相によると、合計10の地域で避難が余儀なくされ、多くの住民がオンタリオ州南部の都市に避難しているという。
「死者が出なかったのは奇跡だ」と州首相は述べた。
(追加取材:ケイティー・ウィリアムズ、ナーディーン・サード)















