【解説】ルラ大統領の逆転勝利、ラテンアメリカへのトランプ氏の野望にへこみが

赤いキャップをかぶりさまざまな旗を振る大群衆の中、青いデニムシャツ姿に赤いキャップをかぶったルラ大統領が車の屋根の上に設けられた演台に立ち、大きいブラジル国旗を振っている。複数の側近がその両脚を抑えて固定している
画像説明, 決選投票前の集会で国旗を振ったルラ大統領(24日、サンパウロ)
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アイオニー・ウェルズ

「ブラジルは、誰かの裏庭になることを受け入れない」。ブラジルの左派大統領、ルイス・イナシオ・「ルラ」・ダ・シルヴァ氏は選挙勝利演説でこう宣言した。このメッセージは明らかに、アメリカ政府に向けてのものだった。

どの国の選挙でも、外交政策が選挙の行方を決めることはめったにないし、今回のブラジル大統領選も例外ではなかった。しかし、アメリカがブラジルの内政に干渉していると非難するルラ氏の毅然とした姿は、愛国心をかき立て、選挙運動の効果的な手段となった。

権力者に立ち向かうその姿勢は、元労働組合指導者としてのルラ氏の政治ブランドにも合致していた。

一見矛盾した話だが、ルラ氏のこの姿勢がむしろ、ドナルド・トランプ大統領の尊敬を勝ち取ったようだ。

選挙結果を受けてトランプ氏は、「私はルラが好きだ。私たちはうまくやっている」と発言した。

とはいえ、「どちらの味方もしなかったが、またしても仕組まれた選挙に見える」と、具体的な証拠を上げずに発言。「ひどい様子に見えた」とも述べた。

トランプ氏のこの発言があいまいで分かりにくいと感じるなら、それは両大統領の関係が単純ではないからだ。

トランプ氏は、ルラ氏の対立候補フラヴィオ・ボルソナロ氏をはっきりと支持していなかった。

今回の結果について、中央選管に当たる高等選挙裁判所は選挙に不正の証拠はないと判断している。ボルソナロ氏の党も結果を認めている。しかし、本人は敗北を認めていない。そして、トランプ氏はフラヴィオ氏の父ジャイル・ボルソナロ前大統領とは近しい盟友関係にあった。

私は昨年9月、ルラ氏を公邸で取材した。当時のブラジルとアメリカの関係は、どん底まで落ち込んでいた。ルラ氏はトランプ氏とは「関係を築いていない」、一度も話したことはなく、電話に出るつもりもないと私に言った。トランプ氏は当時、ブラジルに懲罰的な関税を課していたが、これは主にジャイル・ボルソナロ前大統領によるクーデターに対する裁判に政治的圧力をかけるためのものだった。トランプ氏はこの裁判を「魔女狩り」と呼んでいた。

アメリカの一部の同盟国のようにトランプ氏に気を遣うのではなく、ルラ氏は反撃に出た。そして、それは功を奏した。

ルラ氏は選挙戦で、ブラジルの主権を演説で激しく力説し、アメリカによる司法手続きへの干渉を非難し、「ブラジルはブラジル人のものだ」と書かれた青い帽子をかぶるようになった。

彼の支持率は急上昇した。

アメリカによる関税を求めてトランプ政権に働きかけたボルソナロ一家を、ルラ氏は非愛国的だと非難した。このことは、愛国心を主張の基盤とすることが多い右派政治にとって、大きな打撃となった。

農業ロビーの一部は、普段ならボルソナロ氏を強力に支持するはずだが、対米貿易に依存しているだけに、関税をめぐるルラ大統領の主張には一理あると考えた。

アメリカはやがて譲歩して関税を引き下げたが、その後に再度引き上げた。

その後、関係は改善した。

両大統領は国連で演説した後、ホワイトハウスの大統領執務室で会談した。トランプ大統領は会談を「非常に良かった」と評し、ルラ大統領は「非常に満足して」会談を終えたと述べた。

トランプ氏は強権的な指導者を好むと言われる。両大統領の関係も、そのしるしなのかもしれない。

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では、トランプ氏がこの選挙結果に不満だとすると、それはなぜだろう。

ラテンアメリカは右傾化しており、エクアドル、チリ、コロンビア、アルゼンチン、ペルーはいずれもトランプ政権と緊密な関係にある大統領を選出した。トランプ氏はこうした同盟諸国を利用して西半球においてアメリカの覇権を確立しようとしており、この戦略を「ドンロー主義」と名付けている。

フラヴィオ・ボルソナロ氏が第1回投票で勝った後にトランプ氏は、ブラジルが「10番目にして最大の成果」になると思ったはずだと、英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のラテンアメリカ担当上級研究員、クリストファー・サバティーニ氏は言う。

ブラジルはラテンアメリカ最大の経済国だ。そして、フラヴィオ・ボルソナロ氏は、麻薬密売対策としてトランプ氏が提唱する「米州の盾」に加わると予想されていた。

加えてブラジルは、中国に次ぐ世界第2位のレアアース鉱物埋蔵量を誇る。アメリカは、優先的アクセスを狙っていた。

両大統領の関係は改善したが、ルラ氏の任期はあと4年残っている。このため、いくつかの問題を機に、再び緊張が増す可能性がある。

ブラジル政府は今年初め、ブラジルの選挙制度への信頼を損なおうとアメリカ政府が画策していると非難し、訪問を予定していた国務省職員2名への査証(ビザ)発給を拒否した。

アメリカはブラジルのこの主張を「根拠のないもの」とし、対抗措置として駐米ブラジル大使のビザを取り消した。

今回の選挙結果について、もしもトランプ氏が「仕組まれた」と主張し続けるなら、外交関係はおそらくいっそう悪化するだろう。

加えてルラ大統領は、ヴェネズエラでのニコラス・マドゥロ大統領(当時)の拘束から、麻薬密輸船とされる船舶への爆撃に至るまで、ラテンアメリカにおけるアメリカの軍事行動に強く反対してきた。

フラヴィオ・ボルソナロ氏の働きかけでトランプ政権が、ブラジルの二大ギャングをテロ組織に指定したことも、ルラ大統領は厳しく非難し、ブラジルの主権が攻撃される危険を警告した。

アメリカによる主権の攻撃というのは、この地域の左派にとっては、デリケートな問題だ。20世紀にはラテンアメリカの多くの国で、「共産主義を食い止める」という名目を掲げる米中央情報局(CIA)の後ろ盾を得た政権が、残酷な独裁支配を続けた。各国の左派は、それを忘れてはいない。

そして、アメリカのテクノロジー業界がある。

ルラ陣営は、米メタがフラヴィオ・ボルソナロ氏を支持していると非難した。

メタはこれを否定したが、モデレーションの問題や技術的なエラーのため、一部の投稿が誤って削除されたり、閲覧範囲が制限されたりしたことは認めた。

ルラ氏の支持者たちは、メタのアルゴリズムを回避するため、1000万人強が参加するワッツアップ・グループを駆使し、ルラ氏のメッセージを拡散していった。

一方、トランプ政権は、ブラジルの即時決済システム「Pix」に不満を抱いている。Pixはブラジル経済を活性化させているものの、米Visaやマスターカードの顧客を奪っているとアメリカは見ている。

両大統領の関係を通じて、ブラジル国内の政治的な分断が露呈した。

選挙運動中、ボルソナロ支持者は集会でアメリカ国旗を振った。「トランプ、ブラジルに核攻撃を」と書かれたバルーンが登場した集会もあった。これに対してルラ氏とその支持者たちは、フラヴィオ・ボルソナロ氏がブラジルの国益よりもアメリカの国益を優先していると非難した。

ただし、両国間の緊張が大げさに誇張されている場合もある。

アメリカは依然として、中国に次ぐブラジルの第2位の貿易相手国だ。そして、今のところ両大統領は関係を保っている。

これが続くかどうかは、アメリカが果たしてブラジルの内政にどれだけ介入しようとするかにかかっているし、そしてそれに対してルラ大統領がどれほど強硬に対応するかにかかっている。