英海兵隊がロシア「影の艦隊」の石油タンカーを拿捕 英仏海峡で

動画説明, 英海兵隊が作戦映像を公開、ロシア「影の艦隊」の石油タンカーを拿捕
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エラ・キップリング記者、トム・サイモンズ特派員、パトリック・ジャクソン記者

イギリス海兵隊のコマンドー部隊は14日未明、英仏海峡でロシアの「影の艦隊」に属する石油タンカーに乗り込んだ。

海兵隊の特殊部隊は、英国家犯罪庁(NCA)の捜査員らと共に、イギリス空軍の支援を受け、6時間にわたる作戦で「スミルトス」号を拿捕(だほ)し、乗船した。イギリス軍がこうした作戦を行うのは初めて。

英国防省によると、捜査の間、スミルトスはイングランド南岸沖に抑留され、監視下に置かれる。

NCAの捜査官は、対ロシア制裁違反の疑いで、38歳のインド国籍の人物を逮捕し、拘束した。

NCAはまた、ジョージア国籍とインド国籍の乗組員24人が船内にとどまっており、「捜査に協力している」と明らかにした。

ロシアはこの件にすぐに反応していないが、ロシアはこれまで、同様の拿捕は違法な行為で「国際的な海賊行為に近い」と表現してきた。

イギリスのキア・スターマー首相は「この作戦の成功は、ロシアにいっそうの打撃を与え、(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンによるウクライナでの戦争を支える者たちに、逃げ隠れは許されないと改めて思い知らせる」と述べた。

英国防省が公表した映像では、武装した隊員がヘリコプターからファストロープで降下し、船舶に乗り込む様子が確認できる。

さらに別の映像には、隊員が船内の居室を捜索する様子や、NCAの捜査員が書類を検査する様子が映っている。

ロシアは、自国の石油輸出に対する制裁を回避するため、「影の艦隊」を運用してきた。

英国防省によると、700隻を超える船舶からなるこの船団は、制裁対象のロシア産石油の75%を輸送しており、同国政府にとって極めて重要な生命線となっている。

海上に浮かぶ大型船の上空を飛ぶヘリコプターから、カーキ色の服とヘルメットをかぶった兵士が身を乗り出している

画像提供, Ministry of Defence

画像説明, この作戦には海兵隊コマンドー部隊に加え、英国家犯罪庁の特別訓練を受けた捜査員も参加した

スターマー首相は3月、イギリス軍について、「現在、我々の海域を通過する制裁対象の船舶に乗り込むことが可能になっている」と述べていた。

国防省によると、イギリスはこれまでに500隻を超える船舶に制裁を科してきたという。制裁は、対象船舶がイギリスの港に入港ることを禁じるとともに、ロシア産石油を供給または輸送する船舶に対して、イギリスの企業および個人が金融、保険、仲介サービスを提供することも禁止している。

船舶追跡サイト「マリントラフィック」によると、スミルトス号はカメルーン船籍で、イングランド海峡のウェイマス沖に停泊している。

BBCヴェリファイ(検証チーム)によると、この船舶は6月5日にロシア・サンクトペテルブルク近郊の石油ターミナル、ウスチ・ルガ港を出発し、14日に西へ進んで同海峡に入った。

同船は2025年7月に制裁対象となった。その後、船名をミルトスからスミルトスへ変更したほか、船籍も2度変更している。

英国防省は、この作戦がイギリス沿岸から12カイリ以上離れた国際水域で行われたと説明。また、国内法および国際法の双方に完全に準拠していたとしている。

同省の報道官は、この作戦が数週間にわたる軍事および政治上の計画の結果だったと述べた。

また、公表した映像は、部隊が同船を制圧した後に撮影されたと説明した。

報道官はBBCに対し、初動部隊が「制圧」を行い、安全に撮影できる状態を確保した後、撮影クルーがタンカーに乗り込んだと説明。映像に「演出」や繰り返しが含まれているとの見方を否定した。

提供された映像には、捜索最中に「回している」との声や、コマンドー部隊員に対して「そのままで」と求める声が聞こえる様子が映っている。

別の場面では、武装した部隊が戦術的に階段を降りていく様子を、カメラが正面から捉えている。

報道官は、「複数のタイミングで隊員がロープで船舶に急降下しており、一部の部隊がすでに乗り込んでいる時に降下した隊員もいる。なので、降下の様子が撮影できた」とも説明した。また、撮影を担当したのは、現役の海兵隊コマンドー隊員だとも明らかにした。

「隊員保護のため作戦の詳細には踏み込まないが、海兵隊がこのような船に乗船する際に、船舶を安全に制圧するためにいかに綿密な作業と細かい配慮が必要かを、撮影映像は示している」と、報道官は付け加えた。

白と黒に塗り分けられたタンカーに、ヘリコプターが接近している様子

画像提供, Ministry of Defence

画像説明, 石油タンカー「スミルトス」にイギリスのヘリコプターが接近している

14日の海兵隊の作戦には、海上航空集団の航空機や空軍の哨戒機P-8に加え、フリゲート艦サザーランドと機雷掃討艦レッドベリーが支援に当たった。

先週、軍務担当閣外相を辞任したばかりのアル・カーンズ氏は同日、BBC番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」に出演し、この作戦では、隊員が「海面すれすれを低空で飛行し、船の手前で機体を引き起こし、ロープで船に急降下し、船を制圧したうえで我々の領海へ移送」したと述べた。

また、イギリスが今回初めて、ロシアの「影の艦隊」の船舶に乗り込んだことで、「機会があれば、同様の事例がさらに見られる可能性が高い」とした。

リチャード・ハーマー英法務長官は作戦について、「この政府は、国際法の全面的な適用の下で、ロシアの影の艦隊を追及すると明確にしていた」と述べた。

英政府は、ウクライナにおける「ロシアの戦争機構への資金供給を締め上げる」ため、ロシアの石油収入を標的にしていると説明している。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「ロシアの石油船団に対して重要な措置を講じた」と、イギリスに謝意を示した。

ゼレンスキー氏はソーシャルメディア「X」に、「欧州は、タンカーの拿捕や石油輸送の制限だけでなく、搭載されている石油の没収も可能にするため、立法措置を早急に講じる必要がある」と投稿した。

英最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、「勇敢な」軍関係者に敬意を表したうえで、「政府がウクライナと共に立つことを、私は支持する」と述べた。

英国防省はまた、この作戦がフランスと緊密に連携して実施されたと明らかにし、イギリスが同盟国に提供してきた最近の支援が基盤になっていると説明した。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は今月1日、自国軍がイギリスの支援の下、ロシアの影の艦隊の一部とみられる制裁対象の石油タンカーを拿捕したと述べた。

英国防省はBBCに対し、この作戦ではイギリスのヘリコプターが支援を提供したと説明した。

防衛費めぐり政府が揺れるなか

イギリスでは先週、防衛投資計画(DIP)をめぐる政府内での対立から、閣僚の辞任が相次いだ。DIPの策定は数カ月に渡って遅れているが、来月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に先立って公表される見通しだ。

12日に国防相を辞任したジョン・ヒーリー氏は、スターマー氏が提案した防衛支出の基準が、必要とされる水準を「大きく下回っている」と述べた。その直後に軍務担当閣外相を辞任したカーンズ氏も、スターマー氏に対し、現在のDIPは「変革としても、その資金も不十分だ」と伝えた。

リサ・ナンディー文化相は14日、BBC番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」で、スターマー氏は閣僚に対し、「防衛のために追加の資金を見つけなければならないと明確に述べていた」と説明。DIPに関する協議は現在も続いていると付け加えた。

また、政府は「我々の防衛支出のあり方を変革し、現在および将来に直面する脅威に見合うものにしなければならない」と述べた。

保守党のジェイムズ・カートリッジ影の国防相は、国防省が今後数年間で最大280億ポンド(約6兆円)の追加資金を必要としている可能性があるとした上で、福祉支出の削減が「その大きな部分」を占める必要があると述べた。