アメリカが国際刑事裁判所への制裁発表、 ICCは「法の支配への攻撃」と非難

青空の下、国際刑事裁判所の建物
画像説明, アメリカによる制裁発表について、ICCは「ひるむことはない」と表明した
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トム・ベイトマン米国務省担当特派員、アナ・ホリガン記者(ハーグ)、フローレンス・フリーマン記者

トランプ米政権は9日、国際刑事裁判所(ICC)に対する幅広い制裁措置を発表した。トランプ政権はICCを「暴走」機関とみなし、「解体」しようとする動きを加速させている。

ICCとの取引をアメリカ企業に禁止するなどの措置について、マルコ・ルビオ米国務長官は「アメリカの主権を守る」ためのもので、ICCがアメリカ人を訴追しようとしていると述べた。

ICCは、トランプ政権による一連の制裁措置は、法の支配と国際法秩序の基盤に対する攻撃だと非難した。

トランプ政権はすでにICCの裁判官や職員17人に制裁を科しているが、今回の措置は裁判所の組織そのものを対象とするもので、財務面での運営能力を破壊しようとしている。

しかし、アメリカは最新の制裁措置の一部が発効する前に6カ月の猶予期間を設けている。このため、他の加盟国がICCの運営費用を負担していくことが可能だ。この猶予期間についてアメリカは、各国がアメリカの懸念に対応する「解決策」を交渉するためのものだと説明している。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「国際刑事司法の実現に向けた我々の共同の取り組みにおいて、ICCは主要な柱であり、(アメリカの決定は)それに対する深刻な打撃」だと評した。

発言するルビオ氏
画像説明, ルビオ米国務長官は「ICCが脅迫を終わりにするか、我々がICCをおしまいにするかのどちらかだ」と発言した

アメリカの制裁発表について、イギリス、カナダ、デンマーク、ドイツ、フランス、イタリア、日本、オランダの各国政府は共同声明を発表。ICCの「独立性、公平性、及び完全性に対する継続的かつ揺るぎない支持を改めて表明」すると述べた。さらに、アメリカの「制裁の発表を遺憾に思い、強く反対」するとした。

8カ国はさらに、アメリカの制裁が発動されれば「裁判所の業務、その献身的なスタッフ、およびその家族に重大な影響を及ぼす」との危機感を示した。その上で加盟国として団結し、11月30日~12月7日にハーグで予定されている締約国会議の年次会合に向け、「非締約国との建設的かつ包括的な対話に取り組む姿勢を堅持」すると述べた。

共同声明はまた、「最も深刻な国際犯罪で訴追された者たちを裁きにかけ、被害者を支援するために日々尽力している」裁判所のスタッフを称賛した。

ICCは2002年、戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイド(集団殺害)を裁くために設置され、125カ国が加盟している。アメリカ、ロシア、中国、インド、イスラエルなど、いくつかの主要国はICCに加盟していない。

トランプ政権はかねて、いわゆる「グローバリスト」がアメリカの主権を脅かそうとしていると主張し、ICCはその「グローバリスト」が運営する組織だとしてきた。

トランプ政権はICCについて、アフガニスタンでの米兵による戦争犯罪の捜査や、イスラエルのネタニヤフ首相らに対する逮捕状の発行などに、強く反発してきた。ただし、ネタニヤフ氏らへの逮捕状撤回を、制裁解除の条件にはしていない。

しかしルビオ長官は、ICCがアメリカ人を訴追することをトランプ大統領は許さないと述べ、「ICCが脅迫を終わりにするか、我々がICCをおしまいにするかのどちらかだ」と発言した。

トランプ政権の制裁措置により、アメリカ企業は銀行業務やソフトウェアなど商品やサービスを、ICCへ提供することが禁止される。

ルビオ氏は、アメリカが制裁措置の発動を遅らせたのは、ICCとその加盟国がアメリカの懸念に対応することを期待したからだと説明。制裁措置は、他国が解決策を交渉できるように構成されているとも述べた。

長官はさらに、ICCに加盟するイギリスなどアメリカの同盟諸国が、ICCを「抑制する」よう求めた。

ICCはオランダ・ハーグにある。オランダは北大西洋条約機構(NATO)に加盟するアメリカの同盟国なだけに、特に強い圧力に直面している。オランダのトム・ベーレンドセン外相は、アメリカの制裁はICCの機能に深刻な影響を与えるだろうと懸念を示した。

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は制裁を歓迎。ICCは「裁判所ではなく」、法律を守る民主主義国家と「国家主権という概念そのもの」を脅かす政治機関だと批判した。

ICCに出廷したドゥテルテ氏。濃い色のジャケットに白いシャツをネクタイなしで着ている
画像説明, フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ前大統領のICC公判は11月末に始まる予定(9月16日、オランダ・ハーグ)

ICCは、今回の制裁はICCの活動妨害と協力者の威嚇(いかく)を目的としたもので、「法の支配への攻撃」だと批判。正義のために行動した者が罰せられるべきではないと反論し、「歴史がこの瞬間を裁くことになる」とした上で、自分たちは「ひるまない」と表明した。

アメリカは、個々のICC裁判官や検察官を標的にするのではなく、裁判所そのものに制裁を科そうとしている。それだけに、アメリカとのこの対立は、ICCの24年の歴史において最も深刻な危機となる可能性がある。

かつて米国防総省の特別司法顧問だった米ニューヨーク大学ロースクールのライアン・グッドマン教授によると、制裁措置によっていずれICCが裁判を行えなくなる可能性があり、その場合は審理や判決を待つ間、拘禁されている被告人たちは釈放せざるを得なくなるかもしれないという。

ハーグで公判開始を待つ被告の中には、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ前大統領(81)も含まれている。

ドゥテルテ前大統領は、2011年から2019年にかけてフィリピン国内で展開した「麻薬戦争」において、数千人を司法手続きのないまま殺害した罪で起訴されている。ICCの審理を待つ中には、リビア、スーダン、中央アフリカ共和国で戦争犯罪の罪に問われている元高官らも含まれている。

グッドマン教授によると、ルビオ氏は上院議員時代、ドゥテルテ前大統領による「犯罪」をしきりに強調していた。

そのドゥテルテ前大統領が釈放されることになれば、「国際正義の実現に向けた世界の取り組みに、そしてフィリピンに、甚大な損害を与えることになる」と、教授は話した。

「被害者にとっては、とてつもなく精神的につらいはずだ。その多くは、正義の実現を願って、自分を危険にさらしてICCの手続きに参加している」とも、グッドマン教授は話した。

トランプ政権は今回発表した制裁措置の中で、ICCの一部業務について「サービス提供」の継続を認めている。その中には、ドゥテルテ前大統領らの「拘禁に使用される施設の運営に関するサービス」提供継続の「許可」が含まれている。

しかしグッドマン教授によると、資金的な制裁によって裁判所が公正な裁判や控訴を行うことができなくなった場合、最終的には拘束されている被告人は「法律上」釈放される可能性があるという。